FC2ブログ

「★PERFECT BLUE:別シリーズ【完結】」
1幕-4:ダンデライオン

PERFECT BLUE 04-02

 ←PERFECT BLUE 04-01 →PERFECT BLUE 04-03
「今日も智司は、ちゃんと生きてるね」

自分に口づけ、触れながら、必ず彼が口にする言葉。
そのために、こんなことをしているのだから。

『智司、俺とセックスしない?』

彼が皆藤にそう提案してきたのは、1年前のちょうど今頃。

『智司が生きてること、確認したいんだよね』

生存確認のためのセックスだよ。何でもないことのように、宇賀はそう言った。
元々皆藤は、セックスというものに思い入れなどない。一時の快楽のために存在するものだと思っていた。しかし、宇賀とはそこまでしてはいけない気がしていて、一度は拒否した。
何故かはわからない。ただ単純に、宇賀相手に興奮などできないと思っただけかもしれない。その時は既に自分の感情にすら鈍感になっていた皆藤には、何も分からない。だがどうしても、宇賀とだけはある一定のラインを超えたくないと思ったのだ。
それでも宇賀は、引いてくれなかった。何が何でも皆藤の体温をもっと近くで感じたいと、確認させてくれと、言ってきかなかった。
いっそのこと無視してやってもよかったのだが、そこまで強く拒絶するエネルギーは皆藤には無かった。そこまでして自分の存在を確認したがる宇賀の感情など興味もないし、自分にそこまでの価値があるかどうかを考えるのも鬱陶しかった。
だから仕方なく、一部だけ受け入れてやることにしたのだ。キスと、体を触るところまでを。
体を触ってキスすれば確認できるだろうと、それ以上の深い行為を決して許さない。それが、皆藤が宇賀に提案した、最低限の妥協案だった。"そんな子供じみた行為だったらしなくていい"と宇賀が諦めてくれるかもしれないという期待もあった。
だが、宇賀は『智司がそこまででも許してくれるっていうなら、それでいいよ』と、提案を受け入れ―――それから1年、皆藤が引いた境界線を超えることなく、宇賀は"生存確認"を続けてくる。

「……」

ふと、皆藤は、ベッドの先にあるデスクに置かれている鏡に目がとまった。
そこに自分が映っていることに気付き、鏡の自分と見つめ合ってみる。彼に"生きている"と言われた自分の顔を、ちょっと見てみようかと思ったのだ。
そんなこといつもは思わないけれど、こんなことをしている最中なんて何も考えないけれど……今日、あるものを見つけてしまったから。
裏庭で、ポツンと咲いていたタンポポの花。誰の目にも止まらないそんな場所でも、黄色の花弁を開かせ、空に向かって伸びていた小さなその花。

『智司くんって、タンポポみたいだよね』

いつだったか、そう言って笑った、大切な友人を思い出したのだ。
生まれて初めて出来た、友達。そして親友。
今はもう会うことの出来ない、遠い人。
今も自分は、タンポポに似ているのだろうか。そう思って、鏡を見たのだ。
しかし。
そこに居たのは、何の感情もない、人形のような顔。まるで宇賀が、マネキンを抱きしめているかのように見える。

「………」

吐き気がするほど嫌になって、皆藤はサッと鏡から視線を外した。

「……智司…?」

皆藤の首筋に顔を埋めていた宇賀が、小さな変化に気が付いたのか、顔を覗き込んできた。

「……何考えてんの?」

皆藤の頬に口付けを落としながら、優しく訊ねてくる。
心配そうな、宇賀の瞳。直視できなくて、皆藤は視線を外した。

「……何も」

すぐに表情を戻して、サラリとそれだけを答える。
すると宇賀も少しだけ苦笑いした後、いつもの軽い口調に戻った。

「ひとつ忠告しておくけどね、こういうときは他のこと考えるもんじゃないよ?」

そう言って笑い、続きを再開する。

歪んでしまった、宇賀との関係。
ただただ純粋に"コイツが好きだ"と思い合える友人関係だったはずなのだが、今の皆藤にはその感覚すら思い出せない。
覚えているのは、いつでも宇賀が自分の隣で笑ってくれていたことだけ。ありがちな高校生の日常を、しかし当時の皆藤が何よりも望んでいたそんな日常を、宇賀が実現してくれていたということだけだ。

皆藤が宇賀と親しくなったのは、入学式初日。
同じクラスで席も隣同士で、出席番号も続きで。

『名前、何ていうの?俺はね、宇賀尚弥』

声をかけてきた彼に対し、最初に受けた印象が悪いものでは無かったから。明るくて親しみ深い人間で、話していて楽しかったから。彼の持つ空気が、穏やかで安らぎを感じたから。だから皆藤は宇賀に心を許し、誰もが認めるほど2人が仲良くなるまでにそう時間はかからなかった。
その後皆藤の伝説が校内に知れ渡り、皆が皆藤を恐れるようになっても、宇賀だけは皆藤を恐れずに無条件に受け入れた。
そんな宇賀の笑顔に嘘が無かったから。"アイツ"と一緒だと思ったから……だから皆藤は宇賀を、"コイツなら信じられる"と思った。"お前を信じてるよ"とか"俺たち親友だよな"とか、そんな言葉が無くたって、互いに信頼し合っていることを分かっていた。
気付いたらいつも自分の側にいて、いつも隣にいた親友、宇賀尚弥。
ずっと、親友でいられると思っていた。信じていられると思っていた。
それなのに―――

2年前の9月。
1つの事件が、皆藤を絶望させた。
皆藤の人生を、人格を、大きく変えてしまった。

あの日……皆藤は仲間からも信じていた教師からも、手のひらを返された。
弁護士さえも、皆藤の訴えに耳をかしてくれなかった。消せない皆藤の過去が、その声を打ち砕いた。皆藤は、誰からも信じてもらなかった。

『それでも俺は信じてる』

宇賀はそう言ってくれたが、当の皆藤は、宇賀を今までのようには信じることが出来なかった。
コイツもいつか自分を裏切るかもしれない―――そう思ったら、宇賀を信じきれなくなった。今までのように完全に彼に信頼を置くことは不可能だった。
いつか裏切られたときに傷つかないように、絶望することのないように。皆藤は、宇賀との間に一定の距離を置くようになった。

「……智司…」

抱きしめる宇賀の腕が、強くなる。

「さとし…」

宇賀の熱い舌が咥内で暴れ、体中を撫で回されて……どう考えてもこのままセックスへとなだれ込んでいるのが普通と思える行為だが。宇賀は忠犬のごとく皆藤の言いつけどおりの"待て"を守るし、皆藤の体が熱くなることは決してない。皆藤から舌を絡ませることもなければ、体を寄せてくる宇賀を皆藤の腕が抱きとめることもない。
こんな関係も友人関係も何もかも、皆藤には何も響いていない、どうでも良いこと。
すべては宇賀次第―――それが、現在の2人の関係の実態だ。



「なぁ、智司……」

ひとしきりじゃれ合い(宇賀の一方的なものだが)、少し眠るためにそのままベッドに仰向けになって。しばらくして、宇賀が呼びかけてきた。

「……何だよ」

ウトウトしかけていた皆藤は、目を閉じたままで答える。

「俺は信じてるから」
「……何を」
「智司が起こした2年前の事件。あれはお前がハメられただけだ、って。お前は、何も知らなかったんだ、って」
「……」
「お前ほどの頭良い人間があんなヘマするわけないし、そもそも、お前はあんなことする奴じゃない」

あれ以来、一度もそれを口にしなかった宇賀が、久し振りに言った。
皆藤は、ゆっくりと目を開ける。しかし、顔を向けることはせず、天井を見つめたまま。

「何でいきなり、しかも今さらそんなこと言ってんだよ」

宇賀にキスされながら、自分もあの日のことをずっと考えていたから内心驚いていたものの、そんな感情を殺して、皆藤はいつもの声で返す。
すると、真剣な顔で喋っていた宇賀もフッと笑い、

「何となくそういう気分だったからね」

と陽気に答えた。
まるで自分を見透かされているような気がして、皆藤は宇賀に背を向けた。

「俺だよ」
「……え?」
「俺がやったんだよ」
「智司?」

ボソリと呟いた皆藤の背中に、宇賀が顔を向ける。

「あの野郎、俺のこと虫けらでも見るように見やがったから、ボコボコにしてやったんだ。俺の顔、二度と見れないようにしてやったんだよ」

何の感情も見せない、皆藤の声。皆藤の背中。
宇賀は、そんな皆藤の肩を掴み、体勢を戻させる。見下ろした皆藤の瞳には、やっぱり何の感情もない。
しかし宇賀には分かる。それはただの、彼の強がりだ。

「勝手に言ってな」

軽くそうあしらって、

「嘘でも、そういうこと言うもんじゃないよ」

お前には似合わない。と、宇賀は皆藤の額にキスをした。
そんな宇賀に、皆藤は軽く舌打ちをした。

関連記事
スポンサーサイト



↓ランキングに参加しています。
にほんブログ村 BL・GL・TLブログ BL小説へ にほんブログ村 BL・GL・TLブログ BL恋愛小説へ

総もくじ 3kaku_s_L.png SS
総もくじ 3kaku_s_L.png Turning point(直×大)
総もくじ 3kaku_s_L.png 悪魔たちの狂想曲(直×大)
総もくじ 3kaku_s_L.png 立ち入り禁止(誠×風)
総もくじ 3kaku_s_L.png Old flame(実×大)
総もくじ 3kaku_s_L.png 最愛2(直×大)
総もくじ 3kaku_s_L.png 最愛(直×大)
総もくじ 3kaku_s_L.png COOL(実×大)
総もくじ 3kaku_s_L.png 女は災い(陸×千)
総もくじ 3kaku_s_L.png 交差点(実×大)
総もくじ 3kaku_s_L.png 恋人たちのクリスマス(ミックス)
総もくじ 3kaku_s_L.png Hide-and-seek(直×大)
総もくじ 3kaku_s_L.png 直感(春×歩)
総もくじ 3kaku_s_L.png Assist(春&歩)
総もくじ 3kaku_s_L.png 一時停止(直×大)
総もくじ 3kaku_s_L.png Engagement(直×大)
総もくじ 3kaku_s_L.png アゲイン(陸×千)
総もくじ 3kaku_s_L.png Beyond Silence(W大)
総もくじ 3kaku_s_L.png 恋愛プロセス(拓×大)
総もくじ 3kaku_s_L.png 満月の夜(直×大)
総もくじ 3kaku_s_L.png 痴話喧嘩(直×大)
総もくじ 3kaku_s_L.png 白い恋人(直×大)
総もくじ 3kaku_s_L.png reward(直×大)
総もくじ 3kaku_s_L.png 君と見る空(直×大)
総もくじ 3kaku_s_L.png 極夜(直×大)
総もくじ 3kaku_s_L.png シンクロニシティ(直×大)
総もくじ 3kaku_s_L.png Stranger(直×大)
総もくじ 3kaku_s_L.png その先へ(直×大)
総もくじ 3kaku_s_L.png 優しい嘘(直×大)
総もくじ 3kaku_s_L.png 【あとがき・雑記】
総もくじ  3kaku_s_L.png SS
総もくじ  3kaku_s_L.png Turning point(直×大)
総もくじ  3kaku_s_L.png 悪魔たちの狂想曲(直×大)
総もくじ  3kaku_s_L.png 立ち入り禁止(誠×風)
総もくじ  3kaku_s_L.png Old flame(実×大)
総もくじ  3kaku_s_L.png 最愛2(直×大)
総もくじ  3kaku_s_L.png 最愛(直×大)
総もくじ  3kaku_s_L.png COOL(実×大)
総もくじ  3kaku_s_L.png 女は災い(陸×千)
総もくじ  3kaku_s_L.png 交差点(実×大)
総もくじ  3kaku_s_L.png 恋人たちのクリスマス(ミックス)
総もくじ  3kaku_s_L.png Hide-and-seek(直×大)
総もくじ  3kaku_s_L.png 直感(春×歩)
総もくじ  3kaku_s_L.png Assist(春&歩)
総もくじ  3kaku_s_L.png 一時停止(直×大)
総もくじ  3kaku_s_L.png Engagement(直×大)
総もくじ  3kaku_s_L.png アゲイン(陸×千)
総もくじ  3kaku_s_L.png Beyond Silence(W大)
総もくじ  3kaku_s_L.png 恋愛プロセス(拓×大)
総もくじ  3kaku_s_L.png 満月の夜(直×大)
総もくじ  3kaku_s_L.png 痴話喧嘩(直×大)
総もくじ  3kaku_s_L.png 白い恋人(直×大)
総もくじ  3kaku_s_L.png reward(直×大)
総もくじ  3kaku_s_L.png 君と見る空(直×大)
総もくじ  3kaku_s_L.png 極夜(直×大)
総もくじ  3kaku_s_L.png シンクロニシティ(直×大)
総もくじ  3kaku_s_L.png Stranger(直×大)
総もくじ  3kaku_s_L.png その先へ(直×大)
総もくじ  3kaku_s_L.png 優しい嘘(直×大)
総もくじ  3kaku_s_L.png 【あとがき・雑記】
もくじ  3kaku_s_L.png 未分類
  • 【PERFECT BLUE 04-01】へ
  • 【PERFECT BLUE 04-03】へ

~ Comment ~

管理者のみ表示。 | 非公開コメン卜投稿可能です。

~ Trackback ~

卜ラックバックURL


この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)

  • 【PERFECT BLUE 04-01】へ
  • 【PERFECT BLUE 04-03】へ