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「★PERFECT BLUE:別シリーズ【連載中】」
1幕-5:駆け引き

PERFECT BLUE 05-08

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町田は、17歳の誕生日に家を出た。
横浜の裕福な家庭に生まれたが両親にはそれぞれ別の相手がおり、会話のない冷え切った家庭の中に町田の居場所は無かった。
居場所を求め続けるうちに中学に入る頃には悪い友人たちと遊ぶようになっていたが、勉強だけは好きだったので成績は常にトップクラスで、県内では屈指の名門高校に合格した。しかし高校でも結局居場所は無く、両親から与えられ続けた金を退学届けと共に叩きつけると、そのまま家を出て東京へ…行きついたのがブリリアント・ストリートだった。当時未成年だった町田にとって、ほとんどが20代前半までの若者で構成されているそこしか、生きていける場所がない気がしていたのだ。
家出少年、不登校生、不良グループ……様々なワケあり青少年たちのたまり場となっているブリリアント・ストリートでは、だいたいがグループで行動する。単独行動はほとんどない。町田も多分に漏れず、グループに属していた。持ち前の賢さで自分を頭とする強力なグループを作り上げ、肩で風を切りながら街を歩くようになるまでそう時間はかからなかった。
両親とは、家を出て以来一度も会っていない。東京に来てすぐに探偵らしき人間が近くをうろうろしていた気がするが、やがてパタリと来なくなったということは、息子の現状を知った両親が自分を見放したのだろうと町田は理解している。親から愛を受ける期待などとっくに放棄していたので、傷つきもしなかった。世間体ばかり気にする両親らしいとも思った。だからこそ彼らは、既に破綻した結婚生活を平然と続けていたのだから。
ただただ、自分の居場所が欲しい。自分の存在を認めて欲しい―――町田の願いは、それだけだった。

一方皆藤は、貧しい家庭で、父の顔を知らずに育った。
男にだらしがなく家出癖のある母親に、振り回され続けた12年半だった。
どの男との間に出来たのかも分からない子供である皆藤を生んだ母は、男ができるたびに息子を置いて相手の元へと行ってしまう。その度に皆藤は児童施設に保護され、男と別れると母が迎えに来て家に帰された。家に帰ると母に号泣され謝られるのだが、涙が渇く頃には、また母は男漁りを始めていた。
中学に入学して間もなく、もう何度目になるかわからない"母の家出"が発生した日。皆藤は児童施設に気づかれる前にそそくさと家を飛び出し、ブリリアント・ストリートにやってきた。皆藤がその街に現れた理由もまた、町田と同じだった。行く場所が他になかったのだ。

そんなある日。
町田がその街に来て2年が経った、皆藤が現れて数か月が経った、9月の残暑厳しい真夜中。
さびれた店の裏で、2人は出逢ったのだ。

町田は、以前から皆藤のことは知っていた。
通称"レクター"。本名は知らなかった。
中学生とは思えないほど、その可愛らしい顔と華奢な体からは想像もできないほど、恐ろしくて凶暴。"全身凶器"という言葉が彼にはピッタリだと有名だった。彼に勝てる人間はいなかった。
彼がブリリアント・ストリートに現れるようになったのは4月ごろだったが、たった1ヶ月かそこらで彼の名はストリート中に知れ渡り、いつしか、皆藤を頭とする最強グループが出来ていた。
それでも彼にケンカをふっていく自信過剰な愚か者は、100%の確率で倒され、街を追われていった。天使の顔を持つ狂犬"レクター"を、誰もが恐れるようになった。
彼らが何よりも恐れたのは、その顔とオーラと知性。少し潤んだアーモンド型の瞳は、いつでもギラギラとしている。決して自分からケンカはふっていかないが、売られたケンカはきっちりと買い、そして負けない。どんな作戦もしくじらない。巧みな頭脳で素早く計算し、鮮やかに獲物を捉える。
さらに、そんな皆藤と、グループが出来る以前から参謀的な役割をしていた1人の人物がいて。皆藤と彼にタッグを組まれては、誰もたてつけなかった。
しかし町田は、何故かそんな皆藤を気に入っていた。
皆藤は、自分より弱い者には決して手を出さないから。意味もなく人を傷つけなかったから。自分に害を与えてくる人間にだけ、彼は裁きを与えていたのだ。
だから、町田は皆藤のことを恐れていなかった。そのせいか、町田のグループの人間たちは、皆藤に一目を置いていたのだ。

そんな、誰もが恐れる"レクター"が、その日、路地裏で瀕死の重傷を負っていた。
決してしくじることのない、ミスを犯さない彼がなぜそんな状態なのか。理由は簡単だった。
彼の周りには、複数の男たちが横たわっていた。皆藤ほどの重症ではないが、ケガを負っていてうずくまっている。きっと、グループで皆藤にかかっていったのだろう。卑怯なヤツらだ、と町田は思った。そして、例え重症を負ったとしてもこれだけの人数にここまでやってしまう皆藤に対しては、さすがだと感心もしていた。
町田は、何故だか分からないが、彼を助けてやりたいという衝動にかられた。本能的に、"彼を助けたい、死んでほしくない"と思ったのだ。
卑怯な手を使ってまで勝とうとした男たちには軽く蹴りを入れて、町田は皆藤を抱えるとバイクで近くの病院へ直行した。

その出来事がきっかけで、町田と皆藤は一緒に暮らし始めた。
その日手に入れた金でカプセルホテルに泊まっていた皆藤だったから、町田のアパートに暮らすことに少しも抵抗を持たなかった。いくら恐ろしい少年とはいえ、当時皆藤はまだ中学1年生の子供。優しくされたことなど無かった彼は、町田の無条件の優しさに戸惑いながらも無意識に頼ってきた。
町田もまた、さりげなく自分を気遣ってくれる皆藤の優しい一面が心地よかった。誰も見たことのない笑顔を、自分の前では見せてくれることが嬉しかった。
しかし、実状は別のグループのボスである2人。ブリリアント・ストリートでは赤の他人を振る舞いながら、2人きりのささやかな生活を続けていたのだ。
形は違えど、いずれにしても親からの愛に恵まれなかった町田と皆藤。家族というものを失った2人にとって、お互いこそが家族だと思った。

当時の皆藤は、深刻な栄養失調状態だった。
虚弱体質な体に加え、ロクな食事も睡眠も摂らずに生活していたこともあり、ボロボロの体だった。それでも、ブリリアント・ストリートで上手に生きていくには、無理をするしかない。そんな生活を繰り返した結果、町田と暮らし始めて1か月が経った頃、夜中に突然倒れて救急車で運ばれる結果となってしまった。
このままでは死んでしまうと、町田は医者からきつく言われた。
だが、動揺する町田とは正反対に、当の皆藤は至って冷静だった。即入院を告げられても、ただ、首を横に振って拒否するだけだった。

『俺はこのままでいい。今までどおりの生活をして、死んだらそれでおしまい。それでいい』
『そんな…っ。その体でどうするつもりなんだよ。このままじゃ、お前…』
『いいんだよ。もともと、俺は生まれてきたらいけないヤツだったんだから。どうせ父親も誰だかわからないし、母ちゃんだって俺がいなきゃもっと楽な生活できて、男に依存することもなかった。そうやって、俺が生まれて苦しんだ人はいても、喜んだ人は居ない。だから、いんだよ』
『……やめろよ』
『こんな面倒なヤツ拾っちゃってゴメンな、祥』

生でなく死を望むかのような、皆藤の言葉。たった12歳かそこらの少年が発するには悲しすぎるその言葉に、町田は涙が止まらなかったのを覚えている。
だが、悲しみと同時に、彼を死なせてたまるかと感じた。誰よりも大切だと感じた。

『ふざけんな、冗談じゃねぇよ。お前がこの世に生まれてきてくれたこと、喜んでいる人間がここに居る。お前の目の前に、居るだろ。
俺はな、何があってもお前を守るから。生きてて欲しいんだよ。お前が大切なんだ。面倒なヤツだなんて、微塵も思ってねぇよ。
お前が死んだら、俺は一生後悔する。何の病気ってわけでもねーのに大事な奴を死なせたなんてことになったら、俺きっと一生、自分を恨み続ける。
お前と生きていきたいんだよ智司。これからお前と、たくさん笑ったり、怒ったり、泣いたりしたいんだ。2人でさ、生まれてきてよかったって思える瞬間を、たくさん見つけようよ』

彼に自分の気持ちが届くように、必死で、涙を拭うことすら忘れて、きつく抱きしめながら町田は自分の気持ちを喋り続けた。
すると、ずっと無言で聞いていた皆藤が、沈黙の後、言ったのだ。

『お前が生きろっつうなら、俺、生きるよ。祥だけは悲しませたくねぇし。それに……
俺も、祥となら、生きてみたい。お前となら、見つけられるかな…』

生まれてきてよかったと思える瞬間を、と。

『見つけよう』

町田が笑顔で改めて言えば、皆藤も大きく頷いた。

皆藤に健康的な生活を送らせるために、町田は更生して働くことを決意した。
グループのリーダーである町田が抜けることは許されることではなかったが、『大事なヤツを助けたい。俺以外に助けてやれる相手がいない。死なせるわけにはいかない』と悲痛な面持ちで告げた町田を、責められる人間は誰も居なかった。
もともと勉強は好きだったし進学校に通っていた町田だから、働きながら半年で高認(高等学校卒業程度認定試験)に合格することが出来た。幼い頃は学校の先生になる夢を持っていたことを思い出した町田だったが、早く正規で働きたかった彼にとって、大学4年間は長く感じた。大学に通わなくても学校の教諭になれる可能性を考えた結果、専門学校でも免許を取ればなれるという養護教諭を目指すことになった。

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