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「★PERFECT BLUE:別シリーズ【連載中】」
1幕-6:彼の伝説

PERFECT BLUE 06-07

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あれは、2年前の9月。始業式の放課後だった。

『皆藤、ちょっと来いよ』

待ち伏せていた野田に腕を引かれ、突然連れて行かれた裏庭。
そこには、昔の仲間でかつて自分の参謀であったシンがいた。

『シン……?』
『智司!助けてくれ!』

皆藤の姿を見るなり、シンが駆け寄って来て。

『リュウが…!』
『リュウ……?』

リュウという少年も、皆藤のグループにいた人間だった。皆藤とシンより1つ歳下で、シンによく懐いていた少年だ。
もうブリリアント・ストリートからは完全に足を洗った自分の前に、突然現れた仲間。
困惑する皆藤に、野田が言ったのだ。

『リュウを、俺たちが預かったんだよ』

それに続き、シンが経緯を説明した。
シンが言うには、彼らは解散後も再び集結しグループとして活動していたが、皆藤が不在ではグループの力は比べ物にならないほど弱く、皆藤たちが潰した後も水面下で結集して力をつけていたらしい野田たちのグループに、ここぞとばかりに仕返しを受けたということだった。
そしてリュウがしくじり、野田らのグループに捕まった。シンは彼を可愛がっていたから、助けたいのは当然のこと。すると野田が、自分が皆藤と同じ高校にいることをシンに伝えたらしい。『お前のボスに、助けてもらったら?』と、『アイツがお前らを助ける気になればの話だけど』と、意地悪く笑ったのだと。皆藤が協力するわけがないと踏んでいるからこそ野田は、そこまで情報を流したのだと。そうシンは言うのだ。

『頼むよ、智司。お前の力が必要なんだ。
あの時、お前がグループを解散することを強引にでも引き止めなかったのが間違いだったと思う。でも、お前はこの学校で新しい人生を歩んでいるんだし、そんなこと考えちゃいけないよな。
でも今は、お前の力が必要なんだ。もう絶対にこんなことしないから、今回だけ、協力してくれよ。今の俺たちじゃ絶対コイツらに勝てない。リュウを助けに行きたいんだ。お前がいなきゃ……』

必死で助けを求めてきたシンを、皆藤はどうすることもできなかった。実際、自分がグループを解散しブリリアント・ストリートから出ると言い出したとき、決心は固いと言ったとき、仲間たちは最初はダメだと言った。しかし、皆藤に『じゃあ俺は、お前たちを潰すしかない』と言われては、命の危険を感じてしまうのは否めない。"レクター"が本気を出せば、メンバーを倒すことなど、確かに容易いことだから。
そもそも、皆藤は彼らを仲間に引きずり込んだわけではなかった。最初にシンが、街に来たばかりの頃の皆藤と一晩だけ仕事をしたのがきっかけで、シンが仲間を作ってグループを組織しただけ。リーダーシップをとろうとしない皆藤の代わりにグループを仕切っていたのは、いつだってシンだった。
そしてそのシンが、『もういい。リーダーが真面目の腑抜けじゃ、このグループも終わりだ』と言ったことで、グループの解散が決まった。シンの発言に誰も逆らうことは出来なかった。だからシンだけは分かってくれたのだと、皆藤は思っていたのだ。辛辣な言葉を言っていたとはいえ、仲間の輪から去って行く自分を見送ってくれたのはシンだけだったのだから。
そんな彼にこうして助けを求められて、皆藤は思わず心が揺れてしまっていた。
シンの言うとおり野田が自分たちの遊びのためにリュウを危険な目に遭わせているなら、皆藤が来ないことを知っていてこんな風にシンを悩ませて喜んでいるなら、自分のためにシンたちがこうして被害を受けているなら、自分が出るしかないと思ったのだ。野田の予想に反して、自分がリュウとシンを助けるしかないと。そうでなければ、この問題は終わらない。この野田という人間は、何をするか分からない。野田の非情さを十分に知っている皆藤にとって、リュウがとても危険な状況にいるというのは嫌というほどわかる。

しかし、心が揺れたのは一瞬で。皆藤は、すぐに思いとどまっていた。
もう危険なことはしない。それは、町田と、死んだノブと交わした固い約束。それを裏切るようなことだけは、皆藤には出来なかった。
皆藤にとって、町田とノブ以上に大切な人間は居ない。
皆藤が選んだのはシンでなく、当然、町田とノブだった。
すると、

『……分かったよ』

言葉を失ったままの皆藤から答えを読み取ったのか、シンは溜め息交じりにそう言った。

『やっぱり、無理だよな。あのときだって、お前の決意が固いから、解散を認めたんだ。智司は、来なくていいよ。
じゃあせめて、バイク、貸してくれよ。俺さ、タクシーでここまで来たから、アシになるもんがないんだ。頼む!必ず明日までに返すから』

本当は、それも危険だと皆藤は思っていた。
しかし、それがせめてもの妥協案だろうと、皆藤も納得してしまった。
皆藤は、シンを信じていたのだ。いつだって"仕事"に関して皆藤を裏切ったことのなかった彼を、皆藤は信頼していた。もちろんだからといって人間性を信じるとまではいかなかったが、それでも、グループの解散に対して唯一納得してくれたシンを、信じても良いのではないかと思ってしまったのだ。
だから、

『分かった。使えよ……』

そう言って、バイクのキーをシンに渡した。
これが、全ての間違いだった。
これが、彼等の狙いだったのだ。

まさか、シンが野田に寝返っていたことなど。
皆藤がグループを解散して更生すると言い出したときから、彼が皆藤に対し妬みを抱いていたことなど。去り行く自分の姿を、見送っていたのではなく睨みつけていたことなど。
そして、皆藤が自分と同じ高校に通っていると知った野田が、シンをおびき寄せていたことなど……

野田にとっては、自分のグループを潰されたこと、シンにとっては、自分たちを置いて皆藤が1人で更生しようとしたこと。野田にとってもシンにとっても、皆藤は彼等共通の妬みの標的だったのだ。
確かに皆藤は、自分のグループの仲間たちと特別な約束をしたわけではない。気付けば周りが皆藤についてきただけなのだ。だから裏切りにはならないのだが、それでも仲間だと思っていたシンにとって妬みは十分にあった。光の射す道を歩こうとする人間を、シンは許すことができなかったのだ。
そして2人は、皆藤をハメたのだ。

ブリリアント・ストリートの近くで誰でもいいから1人、自分たちを知らない普通の人間を捕まえて暴力を与える。死んでしまってもいいぐらいに。しかし、生きていても自分たちの顔が判別できないよう、目を集中的に。
そして、その場所に皆藤のバイクを捨てて行く。
人に見つかるまえに警察に連絡し、自分たちは姿を消す。"1人の少年が、誰かに暴力を与えている"という通報をして。
皆藤はその罠に、引っ掛かってしまったのだ。シンに、裏切られたのだ。

少年院を出た皆藤が再び学校に通いだしたある日、再び野田に呼び出された。
彼等の溜まり場らしき所に連れていかれ、そこで皆藤は、あの事件は野田とシンの2人だけが仕組んだことだと知った。シンが名前を出したリュウは、実際は解散を機に彼もあの街を出ており、それ以降シンとは一度も会っていない。ただ理由づけのために、勝手に名前を出されただけだった。
野田の他のグループの人間もまた、皆藤たちに潰されてすぐブリリアント・ストリートを出て行ってしまったし、皆藤のグループの人間たちも、解散してからは連絡を取り合ってなどいない。リュウについても、他の仲間と同様に、シンは彼の居場所なんて知らないのだ。野田とシンも、互いの居場所など知らなかった。
しかし7月のある日、2人は偶然再会した。もちろんそれは、ブリリアント・ストリート。
今までと違うのは、昼間だったこと。互いに高校でも不良としてしか生きることができなかった2人は、その日も学校終わりにあの街でフラフラしていた。そんなときに再会したのだ。
そして、野田が皆藤と同じ高校であることをシンに喋り、2人は皆藤への復讐を企てた。
しかしすぐに夏休みに入ってしまい、皆藤の住所など知らない2人は、学校が再開する9月をメドに作戦を練っていた。そして始業式の朝、皆藤がバイクで来たことを確認した野田がシンを携帯で呼び出し、計画が実行に移された。
2人は、皆藤が一緒に来る事を渋ることも分かっていた。寧ろついて来られたら都合が悪い。だが決意の固い皆藤がホイホイと付いて来るはずないことなど、2人には計算済みだった。2人は最初から、バイクだけを持ち出すつもりだったのだ。
全てが、完全に仕組まれたことだったと、皆藤はそこでようやく知った。


「………」

あの日の、野田の勝ち誇った顔は、今でも目に焼きついて離れない。
しかし結局、今の野田は皆藤を恐れている。誰も引き寄せず、冷たい仮面を被った皆藤を、不気味だと感じているのだろう。さきほどの引きつった顔が、それを物語っている。

「……何考えてるか、当てようか?」

不意に、デスクに居た町田が声をかけた。町田は軽い口調を装っていたが、実際は、あまりにも悲痛な皆藤の表情に耐えられなくなったのだ。
しかし皆藤は、すぐに表情を戻すと、

「当てなくていいよ」

卑屈な笑顔を浮かべるだけ。
町田も、眉をヒョイと上げ、「あ、そう?」と話を流してやった。

皆藤は、頭の中にあった忌まわしい記憶を追いやることにした。
今の野田は、自分を恐れている。だから、もう下手な手出しをしてこないだろう。シンにも、野田は伝えるだろう。"今の皆藤は不気味だ、何をしでかすか分からないから関わるのはやめよう"と。ならばもう、それでいいではないかと、皆藤は結論づけたのだ。
それならば気晴らしに煙草でも吸いに行こうかと思っていると、抜群のタイミングでドアが遠慮のカケラもなく開かれ、1人の生徒が現れた。

「あ、やっぱここに居た。まだ靴が残ってたから、ここだろうと思ったよ。今日はバイクで来てないんでしょ?俺のバイクで送るよ」

ニッコリ笑う人物。宇賀だ。

「勝手にロッカー開けてんじゃねぇよ」

皆藤は不機嫌そうに言うと、宇賀と共に保健室を出て行った。

「あれ?俺と帰るために待ってたんじゃね~の?」

パタリと閉まったドアに向かって、町田は呆れ顔で溜め息をついた。

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