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「★PERFECT BLUE:別シリーズ【連載中】」
1幕-7:信じる証

PERFECT BLUE 07-07

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町田の告白に、村山が表情を変えた。
彼は一瞬嫌そうに眉を寄せたものの、その先の話に興味を示したのか、目は先を促すように言っている。

「僕は結局、親にも学校にも、社会にも見放されました。僕の存在を肯定してくれる人間は、どこにもいなかった。それでも居場所を求めて、身を削るような毎日を送っていました。
そういう生活の中で、どうしても守りたい存在が出来ました。その人は自分の存在を、利害関係なく認めてくれた人だった。だから守りたかったし、自分を認めてくれたその人を失うのはとても怖かった。それで、更生しようと決めました。
上手くいかないことなんて、もちろんたくさんあります。上手くいかないことの方が多い。もしも自分のためだけの人生だったら、村山さんの言う通り、悪い誘惑に負けるかもしれません。
でも、誰かのためだったら、絶対に負けない自信がある。その人が悲しむなら、自分を大事にしようって思えるんです。いつでもその人に胸を張っていられる自分でいよう、と。
人間はそうやって、自分だけではなく誰かのためにも生きることで強くなれます。自分と誰かのために変わりたいと思えるし、変われるんですよ」
「………」

村山は、ただ黙っていた。
諏訪も、何も言えなかった。町田が不良だったことは知っていたが、更生した理由にそんな事情があったとは知らなかった。だから、町田の告白に、ただただ胸が熱くなったのだ。

「だから皆藤も、きっと何か、変わるきっかけがあったんだと思うんです。僕も非行時代があったから、彼と話をしていれば、それはすごくわかります。きっと彼は、何かの拍子に"変わりたい"と思ったんだと思います。それが特定の誰かのためなのか、それともこれからそういう存在と出逢いたいと願ったからなのかは分かりませんが。
当時、皆藤が僕と話すときに見せていた表情は、真っすぐで純粋な少年のそれでした。多少の反抗もありましたが、そんなのあの年代の子になら、少なからずあるものです。
皆藤は容易に人に心を許すタイプの少年ではありませんでしたし、誰とでも仲良くなれるような人間でもありませんでした。でも、誰にでもいい顔をする人間の方が、僕は信じられません。実際、彼はそういう性格でも、彼を認め信頼している人間がいます。僕もその1人です。
これが、僕が、皆藤智司がこんなことをするはずないと思っている理由です」

自身の経験を踏まえた町田の言葉は、とても説得力があった。
結果、村山は戸惑う表情をみせている。先ほどまでの呆れや嫌悪のそれは、綺麗に消えていた。
諏訪も、町田の言葉を聞きながら、村山に自分の率直な気持ちを伝えたいと強く思った。

「僕も、まだ2ヶ月程度ですが、皆藤を見てきて、彼の良い所をたくさん知りました。それは、困っている人間を助ける勇気を持っているというところです」
「助ける?」

意外だ、という表情で、村山が目を見開いた。彼にとっての皆藤智司は、凶暴で冷酷無残な少年だという印象しかなかったのだろうから。

「はい、助けます。不良に絡まれているところを彼に助けられた生徒が、僕のクラスにいるんです。それは1人だけじゃない。複数の相手に対しても彼は毅然と立ち向かい、ケンカなどの騒ぎを起こすことなく相手を追い払いクラスメートを助けます。
それに、些細なことですけど、熱を出して倒れた生徒を保健室まで抱えて連れてきてくれました。
それから、自分のせいで相手に不利な事情が出来たときには、敢えて自分も不利な状況を作ってまでして対等な立場に立とうとします。決して、自分だけが良ければいいという判断をしません」
「………」
「そんな彼が、無意味に人を傷つけるようなこと、すると思いますか?僕は思えません。絡まれている人間を助けても、自分から絡んでいくことは無い彼が。しかも、一切の暴力なしで助けることを徹底している彼が」
「………」

諏訪の追い打ちをかけるようなその言葉に、村山は完全に黙ってしまった。言い返す言葉を失い、ただ無言で考え込んでいる。
すると最後に、決定打のごとく町田が告げた。

「皆藤は変わってしまいました。人を信じられなくなって、人とのコミュニケーションに過剰な拒否反応を示すようになりました。
変わってしまったのは、この事件がきっかけです。本当に彼が犯行していたとしたら、そうなるはずはない。自分が罪をきせられたからこそ、全てに絶望してそうなったのではないかと、僕はそう思えてならないんです。実際彼は当時、一貫して無罪を主張していました。それを無視してねじ伏せたのは、弁護士や警察や当時の教師たちです。
村山さん、彼は当時15歳でした。15歳の少年が、自分の間違いに気づき更生し、真面目に生きようと頑張っていたんです。そんな彼を応援してやっても、足を引っ張る権利など誰にもない。でも彼は、心無い誰かに足を掬われ、それを周りの人間たちが更に深い闇へと落としてしまいました。
これは、あきらかな誤審です。僕から言わせてもらえば、バカバカしい先入観による怠慢的な調査です。僕ら無実を信じる人間の声すら、様々な力でかき消された。
結果皆藤は、今でも事件に心を取り残されたままでいます。彼はまだ、17歳です」

最後は声を詰まらせるように、町田はそう言った。
当時15歳の少年が冤罪にかけられ、希望を失い、闇に取り残されたまま生きている。たった17歳の少年が、人生に絶望しながら人間に失望しながら今も生きている―――そんな現実を痛感すれば、普通の人間なら、心を打たれないわけは無く…

「17歳…」

小さく呟いてから村山は表情を歪め、隣の妻も震えるような溜め息をつく。
リビングに、いいようのない沈黙が流れた。




皆藤は、海に来ていた。
今日は町田が朝から出かけていったので、皆藤は家に1人だった。映画でも観に行こうかと思ったが、今あの映画館でやっている映画は全て観てしまったので、海で写真でも撮ろうかと、ふらりとやってきたのだ。
マンションからバイクで1時間弱の所にあるそこは、東京湾を臨める海浜公園だ。都心にも関わらず人が少なく、今日のような曇天の日は週末にもかかわらず貸切状態。周囲に人が集まりそうな店や"映える"スポットが何も無いせいかもしれないが、誰にも邪魔されずに写真を撮りたい皆藤には都合の良い穴場で、よくふらりとここに来る。

ひと気のない海で写真を撮り、砂浜に寝転がる。
皆藤は、海を眺めるのが好きだ。幼い頃、海の近くで育ったからかもしれない。
小学校にあがるまで、皆藤は母の実家がある福島で暮らしていた。海が近くて、海が、幼い皆藤の友達だった。何もかも包み込んでくれそうな海に、いつでも心を癒されていた気がする。
今でも皆藤は、海を眺めているとホッとした気持ちになれる。誰の前でも仮面を被っている自分を見せることに慣れているとはいえ、この海に来てホッとした瞬間、自分が疲れていたことを知る。
海は、皆藤にとっての聖域。だから、自分以外の誰かを容易に連れてはこない。町田とノブしか連れて来たことがない。宇賀を連れてこようと思っていたこともあったが、その矢先にあの事件が起きてしまった。今となっては、彼を連れて行くことが出来ない。
今の自分は、宇賀の前ですら、仮面を外すことは出来ない。心のどこかで、宇賀のことも信じ切れなくなった気がするからだ。

自分は臆病な奴だ。それぐらい、皆藤本人も分かっている。
しかしもう二度と、あんな思いはしたくない。
またあんな思いをして、それでも立ち続けるエネルギーなど、勇気など、もうどこにも……

『皆藤が悪い人間とは思えないからだよ』
『俺は自分の生徒のこと、信じてるからさ』
『俺が皆藤を信じてること、必ず証明するから』

ここ最近、頭をめぐる、諏訪の言葉。

『諏訪は、真剣だよ?それだけは分かってやりな』

町田すら、そんなことを言った。しかし皆藤にとっては、その言葉すら混乱を煽っただけだった。諏訪の粘りに困惑している自分に、追い打ちをかけるように言われたところで、理解などできない。
この1年半、気持ちや感情を押し殺して全て撥ね付けることで、自分を守ってきたのだから。
誰にも心を開かないならば、傷つくことも裏切られることもない。それでいいと思ってきた。
町田さえいればいい、と。自分が信じ、信じてくれている町田さえいれば、他に欲など言わない。これ以上の世界はないけれど、これ以下の世界もない。傷つくこともない。町田にだけ自分の真実をわかってもらっていれば、それでいい。そんな自分が、誰にも心を開けない可哀相な人間だとか、不幸な人間だとか、そんなこと思わなかった。町田と知り合う前の自分と比べれば、寧ろ今の自分は幸せな方だとすら思った。
それなのに……
諏訪が、自分の生活に波風を立ててきた。
撥ね付けても撥ね付けても近づいて来て、受け入れようとしてくる。

―――俺に、一体どうしろって言うんだ……

皆藤は起き上がると、立ち上がって波打ち際へと歩いた。
ジッと、海を眺める。それから、頭を空っぽにしようと、目を瞑って波の音に耳を澄ましてみる。
こんな自分にも、波の音は相変わらず優しかった。
すると、不意にポケットで震えるスマホ。電話の着信だ。
画面に現れた文字は、"宇賀"。

「………」

無言で通話ボタンを押して耳に当てる。"誘い"の電話だった。
皆藤はフッといつもの表情に戻すと、バイクの元へ歩いた。
煙草に火を点けてからエンジンをふかすと、颯爽と走り出した。




待っている時間は、とても長く感じられた。
しかし、諏訪も町田も、何か言葉を発することはしなかった。村山には、考える時間を必要なだけ与えるつもりだった。

「……分かりました」

大きな溜め息とともに、村山はまず、そう言った。

「それで、私はどうすればいいんですか?」

根負けしたように吐かれた言葉に、諏訪と町田の表情が少し明るくなる。
そして諏訪が、本題の用件を伝えた。

「皆藤に、会って欲しいんです」
「……え?」
「会って、確かめて欲しいんです」

言いながら、諏訪は1枚の写真を出す。

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