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「★PERFECT BLUE:別シリーズ【完結】」
1幕-7:信じる証

PERFECT BLUE 07-08

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「先日、僕たち、この場所まで行ってきたんです」

諏訪が出した写真は、事件現場の写真。

「この場所は、公園の出入口付近でした。公園の中にまで入ってしまえば、暗くて人の顔を認識するのは困難です。でも、出入口付近は、周りの街灯があるせいか比較的明るいんです」

実際、諏訪はあの場所で確認をしてきた。放課後に町田に一緒に来てもらい、あの場所に立ったのだ。そしてこの場所が、ひと気はないものの、明かりは十分にあることを確認してきた。

「村山さん……」

写真を眺めていた村山へと、町田がわずかに身を乗り出す。

「教えて下さい。あなたがあのとき見た光景を全て」
「……言ったでしょ。私は何も覚えていない」
「なら思い出してください。救急隊員がかけつけてきたとき、あなたは意識がはっきりしていたんですよね?その後も、意識を失うことは無かった。何か思い出せること、あるはずです」
「………」
「お願いします村山さん。被害者のあなたにこんなこと頼むのは、僕らだって心苦しいです。事件のことがフラッシュバックすることで、またあなたが苦しむかもしれない。
でも、あなたと同じように、あの事件で苦しんでいる人間が居ます。どうか、ご協力いただけませんか?」

町田は必死で、村山に訴えかける。諏訪も身を乗り出し、彼に続いた。

「真実を突き止めることは必要です。本人が望めば、再審を請求することだってできる。そうすれば、彼が下された"少年院への送致"という保護処分が取り消せる可能性も出てきます。彼の経歴についた、いわれのない傷を消せるんです。本来あるべき形にしてやれるんです。
仮にもし、そこまで彼が望まなかったとして、あなたや、この事件の容疑者が彼だと知る人間たちには、真実を知ってもらいたい。このまま彼がみんなに疑われて生きるのを、僕は見ていられません」

今からでも間に合うはずだ、諏訪はそう信じている。

「諦めることしか知らない彼に教えたい。諦めずに自分の信念に正直に突き進めば、必ず真実は見えることを。作り上げられた真実は、必ず暴けることを。それを、僕らが身を持って教えてやりたいんです。
だから、それを証明できるものが欲しい。それは、あなたの協力無しでは出来ません」

最後に諏訪はそう閉め、2人は示し合わすでもないのにほぼ同時に頭を下げた。
言いたいことは全て言った。できる限りのことはやった。それでも村山の心に届かなければ、正直もう手はない……
2人の悲痛な思いは表情にも態度にも出ていたのか、村山は気まずそうに黙って俯いてしまった。
村山が、ひとつ大きな溜め息をつく。それから、諏訪と町田を見つめた。

「諏訪先生と、町田先生、でしたっけ?」

呼びかけられ頭を上げた2人が見た村山の顔からは、さきほどまでの頑なさは抜けていた。優しい、柔和な表情だ。この表情の方が村山にはよく似合うと、2人は思った。

「どうしてあなた方は、そこまで必死になれるんですか?」
「「え?」」
「学校の先生とはいえ、どうしてそこまで、何の利益もないことに必死になれるんですか?
私は、そんな教師、見たことない」

若干呆れたような顔で、しかし彼は優しい笑みを2人に投げかけた。それはまるで、"負けた"と言っているようだった。

「あなた方に教えられる生徒は、幸せですね」
「いや、あの、そういうことじゃなくて……」

話の方向が自分たちへと向き始めたことに、諏訪が思わず慌てる。その姿を見て、村山が小さく笑った。

「私は皆藤君という少年と接したことはないから、どんな子かは知らない。でも、あなたたちの気持ちに、年甲斐もなく感動しました」
「ですから、えっと……」
「いいです。何でも訊いてください」
「「え?」」
「ここまで聞いてしまった以上、乗りかかった船です。今からでも遅くないなら、協力します。
それに、皆藤君がもしもあなた方の言うとおりの少年なのだとしたら、あの事件で変わってしまったというなら、私が無関係とは言えないでしょう。あの時、事件を思い出せないのではなく思い出したくないという気持ちの方が強くて、考えるのを放棄していたことは事実です。だからあなた方にだったら、私も過去としっかり向き合って、出来る限り思い出してみますよ。
それで、おふたりが私から訊きたいことは何ですか?」

"やれやれ"と頭を掻きながら、村山が笑う。妻も、同意を求めるように顔を向けた村山に対し「あなたが良いのなら」と小さく笑って頷いた。

「ありがとうございます」

諏訪と町田は、再び同時に頭を下げた。
そして、資料を広げながら諏訪が質問を始めた。

「事件の大きな証拠となったのは、皆藤のバイクです。彼がどうしてこのバイクをここに乗り捨てたのか、それは分かりません。もしかしたら彼は、誰かに貸したのかもしれない。だから、バイクだけでは彼が犯人だという証拠にはならないと思うんです」
「なるほどね。彼が仮に何の非行歴もない普通の少年だったとしたら、そう思うだろうね。それが皆藤君のバイクだったから、容疑者としては十分な材料と判断されてしまったわけですか」
「恐らくそうかと思います。そこで村山さんに訊きたいのが、あの日、村山さんはどういう経緯で公園に辿り着いたかということです」

すると、村山は"ん~"と記憶を辿るように頭をひねりながら答えた。

「公園のすぐ近くにあるコンビニの裏で、呼び止められたんですよ。会社から駅までは、裏道を通った方が早いんです。それには、コンビニの裏を通って行かなければならない。その日も、そうやって帰ったんです。そしたら後ろから"落とし物ですよ"って声をかけられて、振り向いた途端に連れ去られた。これは、警察にも証言しています」
「確かに、調査書にもそう書かれていましたね。でも知りたいのは、もっと詳しいことです」
「詳しいこと?」
「あの日、あなたに声をかけた人物は、1人でしたよね?」
「ええ」
「そしてその後、彼に引きずられて公園まで来た。確かに、コンビニ裏から公園までは目と鼻の先ですから、若い少年の力なら可能なことです。
重要なのは、少年の顔です。村山さん、何か特長とか、覚えていませんか?」
「いいえ。振り向いた途端でしたから、顔は分かりません」
「でも、公園の入口で、顔は見えませんでしたか?」
「……顔、ですか?」

諏訪からの質問に対し、村山は当時を思い出そうと目を瞑る。
しかし、少ししてから目を開き、首を横に振った。

「相手は、帽子を被っていた気がします。だから、よく見えなかった」
「そうですか。じゃあ、ずっと1人だけだったんですか?少年は」
「恐らく。私も殴られて頭が朦朧としてましたから、曖昧ですけど。それに目も血でよく見えなかったし。でも、ひとつのバットで殴られている感じでした。私に声をかけたのもひとりだったし」

当時の自分の辛さを思い出し、村山の顔が少し歪む。隣の妻が、そっと村山の背中を撫でた。

「他に、何か覚えていませんか?どんな些細なことでもいいんです。バイクのこととか、凶器のバットのこととか」
「どんなことでもと言われても……ああ、そうだ。そういえば、」
「はい」
「犯人は、警察が来る前に逃げたんだよなぁ…」

思い出していくうちに曖昧な記憶が少しずつはっきりしてきたらしき村山が、何度も顎をさすりながら記憶の糸を辿り、そんな呟きをもらす。
諏訪と町田は、顔を見合わせた。"やっぱり"…と。

「不意に、エンジンの音がしたんです。仲間が来たんだと、今度は大勢に殴られるのかと、朦朧とした意識の中で考えていたのを覚えています。それなのに、来ると同時に、犯人と共に逃げたんです。誰も居ない場所で、何故か逃げたんですよ。バイクの音もしなかったから、走って逃げたんでしょうね。それから5分後ぐらいに警察と救急車が来ました」
「それは、確かな記憶ですよね?」
「ええ、思い出しました。でも当時はそんなこと考えている余裕などなかったし、冷静な判断力なんてなかったんですよ」
「はい。もちろんそれは分かっています。辛いことなのに思い出してくれて、ありがとうございます」

町田が冷静に微笑むと、村山も分かってもらえたことが感じられたようで、ホッと安心した顔を見せた。

「他には、特に気になったことは、思い当たりません。犯人の顔も覚えてないし、どんな服だったかも、ちょっと……」

分かりません、と言いかけて、村山は再び"あ"と何かを思い出した。

「そういえば、もう1つ……」
「何ですか?」
「私に声をかけた少年なんですけど、ずい分と低い声だったような気がします」
「低い声?」
「はい。低くて、太い声でした」

その言葉に、2人の心に芽生える確信が強くなっていく。
皆藤の声は、決して高いわけではないが、記憶に残るほどの低さはない。一般的なものだ。そして、どう考えても太くない。どちらかというと、よく透るものの、細い声をしている。

「かなり低いですか?独特な声ということですか?」
「ええ。たった一言をそれぐらいに覚えてるほど、特徴のある声です。よくある男性の声では、決してありません。これって、何かの手がかりになります?」
「「十分になりますよ」」

2人は、声を揃えて頷いた。
村山は、"落とし物ですよ"のたった一言でそれほどの印象を感じたわけだから、その少年の声は、彼の言うとおり相当印象的だったに違いない。反して皆藤の声には、特徴はほぼ無い。よくある声だ。だから、皆藤の声を聞けばすぐに分かるはずだ。

「村山さん、皆藤に、会ってくれませんか?」

諏訪は、改めてその用件を口にした。

「実際に会って、彼の声を聞いて欲しいんです。村山さんが聞いた声と皆藤の声の違いは、あなたにしか分からない。それと、皆藤の反応も見たい」
「……反応?どういうことですか?」
「あなたは審判の傍聴を希望しなかったので、皆藤もあなたの顔を見ていないんです。事件の加害者であれば、あのときにあなたの顔を見ているはずです。あなたの顔を覚えているはずです。だから、何も情報を与えないであなたと会わせてみたいんです。それで、彼がどんな反応をするか。第一声、何と言うか。それが一番の判断材料かと思いますし、村山さんにご納得いただけると思います。協力してくれませんか?」

皆藤の無実を信じているからこそ、それを村山らに証明する効力を持つだけの材料が欲しい。それにもし再審請求を行うのであれば、これは重要な点になってくる。犯人が誰だか分からなくても、少なくとも皆藤ではなかったことと、証拠となったバイクは後から来たこと、バイクに乗った人間は意図的に乗り捨てたこと、これは事実なのだと証明できる。警察のずさんな調査をつきつけ、彼らからも謝罪を得ることができるかもしれない。
そんな諏訪と町田の考えは村山も同じだったようで、

「やってみましょう」

村山はさきほどのように渋る顔は見せることなく、即座に大きく頷いた。

「彼に会います。私も、真相を知りたい。あの声は覚えています。聞けばすぐに分かるはずですから」
「「本当ですか?!」」

願っていた答えを聞いた諏訪と町田は、パッと明るい表情になり、村山に今日一番というほど深く頭を下げた。
村山は、頭を掻いて妻と顔を見合わせながら、苦笑している。

「私たちも、子を持つ親です。自分の息子が疑われて生きることは、耐えられませんからね」
「15歳で冤罪だなんて……それが息子だったらと思ったら、いたたまれません。夫には私が居りますし、少しずつ日常を取り戻してきています。皆藤君でしたっけ?彼にも、一緒に立ち直りましょうと伝えたいわ」

笑顔がよく似ている優しい村山夫妻に、諏訪と町田は、何度も頭を下げた。

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