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「★PERFECT BLUE:別シリーズ【連載中】」
1幕-7:信じる証

PERFECT BLUE 07-14

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駐車場に向かうために皆藤が階段を下っていると、下から諏訪が上がって来た。部活が終わって、3階の職員室に戻ろうとしていたのだ。
4限の一件以来初めて顔を合わせるので、諏訪は少しだけ緊張した。だから、自分自身の心も落ち着かせるためにも、穏やかに笑顔を見せる。

「何だ、まだ残ってたのか?」

諏訪の声掛けに皆藤は特に応じることなく、無言でジッと見ている。
しかしそれは、あのガラス玉の瞳ではなかった。しっかりと、色があった。
皆藤の瞳に、自分が映っている―――そう思った瞬間、諏訪の胸は大きく高鳴った。
それは、彼が裏庭でタンポポを眺めながら見せた、あの表情を見たときに感じた鼓動と同じで。きちんと周りを映し出している瞳が自分に向けられていることが、諏訪の鼓動を早めていく。

―――何だ?これ…

諏訪は、自分の気持ちにただただ驚いていた。
一方の皆藤は、内心焦っている諏訪には気付かず、そのまま無言で諏訪の横を通り過ぎる。しかし……

すれ違いざま。
それは、ほんの一瞬だった。

「諏訪先生」

皆藤が、確かにそう呼んで。
いつも諏訪を"アンタ"とか"お前"としか呼ばなかった皆藤が、初めて固有名詞で呼んで。

「え……?」

胸の鼓動を忘れて振り返った諏訪に、

「さようなら」

それだけを告げ、そのまま階段を下りていった。
皆藤は、どんどんと歩いていく。
諏訪は、昇りかけていたはずの階段を慌てて下りた。
下りた先に見えたのは、夕日に照らされた廊下を歩く、皆藤の後ろ姿。

「おう、気を付けて帰れよっ!また明日な!」

諏訪の呼びかけに、皆藤は振り向かなかった。しかし、小さく2度ほど頷いてから、後ろ手に手を軽く振って去って行った。そう、頷き、手を振ってくれたのだ。
諏訪はそれを見つめながら、自分の顔が自然と笑顔になっていることに気付いた。
皆藤はきっと、自分が言った"証明"を分かってくれたのだと、実感した。だから、自分に言葉を交わし、呼びかけに反応してくれた。彼が毛嫌いしていたコミュニケーションを、とってくれたのだと。
それは、諏訪が初めて見る、彼の"普通の生徒"の仕草だった。皆藤智司という少年を、初めて近くに感じた。
皆藤を信じて良かった。改めて、諏訪はそう思った。
だが。

―――ああ、そっか…

もうひとつ、気付いてしまったことがある。

―――何だよ俺……そうだったのか…

皆藤に対して自分が抱く、もうひとつの感情の正体に。

冷たい仮面をかぶる彼にキスをされて、刺激を受けた自分。しかしそれは、人間とは思えないほどの雰囲気を醸し出す皆藤だから、感覚が鈍ってしまうだけだと思っていた。
タンポポの花を優しく撫でていた彼の優しい姿を見たときに感じた鼓動。あれは、ただの驚きだと思っていた。今まで見たことのない表情を、彼からは予想も出来ない表情を見てしまったから、驚いてしまっていただけなのだと。
しかし、やっぱり違うのだと、今確信した。
彼の瞳が景色を映し出し、諏訪の姿も映したことに、喜びと同時に感じたこの気持ちと鼓動。

―――俺、好きなんじゃん

紛れも無く、それは恋愛感情だと。
これからもっと努力して、皆藤と触れ合って、理解し合って、仮面の下に眠る本当の彼を知ればこんな感情もなくなるに違いない、なんて。そう考えていた自分は、甘かったのだ。すでに自分は、彼の毒に冒され、心を全て奪われてしまっていた。そのことに、今、気付いてしまった。
しかし、気が付いたおかげで、諏訪は今までの悩みが解けた。
無意識のうちにこの気持ちを否定してきたから胸のモヤモヤが消えなかったけれど、分かってしまった今、頭はすっきりしていた。

―――ヤバいな、誰を好きになってんだよ俺は…

愚かな自分に呆れながらも、出てくるのは笑いだ。原因のハッキリした感情は、もう認めるしかできないのだから。
芽生えた感情は、それに気付いてしまった感情は、消すことは出来ない。
否定することは、誤魔化すことは、もう出来ない。
たとえそれが、どんなに絶望的な恋であっても―――




駐車場で町田を待ちながら、皆藤は先ほどの自分の行動を考えていた。
突っぱねても突っぱねても粘る諏訪に、ずっと、心の死んだ自分は困惑していた。自分が必死で守る世界に侵入しようとしてくる諏訪が鬱陶しくて腹立たしくて、早く居なくなってくれないかと、そればかり願っていた。
だが、先ほど諏訪を見て、何となく思ったのだ。
"悪くないな"―――と
まだ困惑することは多い相手だけれど、あの教師は嫌いじゃない、と思った。
信じることはまだ出来ないかもしれないが、面白いヤツだとは思う。

「証明、か……」

諏訪が言った言葉を、声に出してみた。
信頼を形に表して証明した奴など、初めてだ。

「……バッカみてぇ」

フッと笑った表情が、また穏やかになったことに、皆藤本人は気付かなかった。

「皆藤くん」

声がして、顔を向ける。
そこに居たのは、待ち合わせ相手の町田。

「何が"くん"だよ」
「いいじゃん。可愛くね?」
「だとしたら、どこ目指してんだお前は」

呆れながら溜め息を漏らす皆藤に、いつものように町田が笑う。
2人は、車に向かって歩き出した。

「なんか腹減ったなぁ。タコ焼き買って帰らねぇ?」
「たい焼き」
「別にそれでもいいよ。でもあの店、今日はタコ焼き味のたい焼き売ってるかなぁ」
「わかったよ。いいよタコ焼きで」
「お、智司やっさし~。あれ、俺今、韻踏んじゃった?」
「……(バカな奴…)」

この男に……町田に、また昔のような笑顔を見せてやれる日が来るのだろうか。
皆藤は、ふとそんなことを思った。それはただの、自分の気まぐれだと思った。


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