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「★PERFECT BLUE:別シリーズ【完結】」
2幕-9:決意の夏

PERFECT BLUE 09-01

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第2幕『変革と共鳴』

【9:決意の夏】

[1]

子供の頃から、夏休みは大好きだった。
宿題もやらずに毎日遊び回って、最終日間近になって必死で片付ける。その度に"来年こそ"と思いながらも、結局毎年、同じことの繰り返し。それでも、そんな夏休みが大好きだった。終わりが近くなると、このまま時が止まらないかとか、夏休みがあと1ヶ月あればいいのにとか、そこまで思うぐらい。勉強も学校も嫌いではなかったが、それとこれとは別物。12月生まれのくせに夏男だと、よく親に言われたものだった。
高校や大学に入っても、夏休みを愛する精神は健在で。前半はバイトをしまくって、後半は友達や彼女と旅行なんかに行ったりする。学校という日常を忘れて休暇を満喫してこそ、また頑張れるのだと思っていた。
しかし。そんな彼―――諏訪慎は、今年初めて、夏休みが早く終わればいいという気持ちを知った。

「はぁぁ~~……」

8月入って間もないある日。その日当番の諏訪は、職員室のデスクに突っ伏して溜め息を漏らした。
夏休みでも、教師は当番制で学校に来る。今日は、諏訪と串崎と町田が当番だ。

「っつーかさ、何で俺たち3人しかいねーの?当番って"少なくとも"4人じゃなかった?」

天井を見上げながら文句を言っているのは、電話番の町田。養護教諭である町田は他の職員と少し離れたところに席があり、先ほどまでは自分の席で資料整理や研修報告書作成やらをしていたが、集中力が途切れたのか、デスクが向かい合っている諏訪と串崎の所へコーヒーを手にちょっかいをかけにきた。そして3年の担任だけあって忙しい串崎に代わり、電話番をしてくれている。
だが、電話番といっても長期休暇期間中となっては、そこまで頻繁にかかってくるわけではない。町田は串崎の隣に座って椅子で回りながらつまらなそうにしている。先ほどまで読んでいた心理学の本も、大した内容ではなかったのか随分前に閉じてしまった。椅子で回るのは彼の癖で、本を閉じてから10分ぐらいずっとそうしているが、慣れているのか全く目が回る様子はない。

「町田、俺が目ぇ回るから、少し大人しくしててくれない?俺は仕事してんだからさ」

ついに限界を感じたらしく、生徒の進路調査書と成績のデータ整理をしていた串崎が溜め息をつきながら町田に顔を向けた。

「ああ、ゴメン。仕事してたのか、くっしー先生は」
「見れば分かるだろ」
「呟きでも投稿してるのかと思った。"マチルダと当番ナウ"って」
「するかバカ」
「それより、マジで何で俺たち3人だけなの?」
「受付室に1人いますよ?」

ずっと黙っていた諏訪が、うつ伏せていた顔をひょいと上げて、町田に言う。

「それは受付の人だろ?そうじゃねぇよ。職員が何で3人か?ってこと」
「当番は、"少なくとも"じゃなくて、"できるだけ"4~5人ですよ。だいたい、4人もいらないじゃないですか。現に3人だって町田さんヒマそうにしてるし」
「そうだよ。それに、しょうがねぇじゃん。俺たち、この学校では"大の仲良し"ってことになってるんだから」

串崎もノートパソコンから目を離さずに言葉だけ返した。
確かに3人は最近、何かにつけてセットにされることが多い。夏休みの当番に限らず、何かしら複数人数で作業をする際にはまとめられてしまう。
生徒を想い行動する3人の姿は他の先輩教諭たちからも認められてはいるものの、その情熱は彼らにとって時に扱いにくい存在であることも事実。更には、町田を筆頭に『内容の無い馬鹿話』『すぐ悪ノリに走る癖』『いちいち盛り上がる』という3大"やかましい奴"要素のオマケ付きである。結果的に"型破りでやかましい若手トリオ"というひとくくりにされたらしき3人は、他の教諭たちからは"とりあえずアイツら3人セットにしとけ"という見方をされがちなのだ。

「確かに他の先生たちには、"君たちのテンションにはついていけない"って顔されてますしね」
「諏訪と串崎、テンション高いもんなぁ。特に諏訪は」
「何言ってるんですか。町田さんだって同類ですよ」
「俺は高くねぇよ。ヤンキーっぽいから、みんな引いてるだけじゃん?」
「"っぽい"じゃなくて、ヤンキーだろ?」
「"っぽい"じゃないですよね、町田さんの場合」
「うるせーなぁ。今は優しい保健の先生なんだからいいだろー」
「ヤクザな保健の先生ですよねぇ。町田さんが白衣着てても、AVか闇医者なんですよ」
「ブハッ。諏訪それわかるわー。エロ怪しいんだよね、コイツ」
「エロ怪しいって何だよ。
つうか諏訪お前、今日は自棄につっかかるじゃん。何、八つ当たり?」

串崎じゃないんだから。と、町田が楽しそうに体を伸ばして諏訪を覗き込んだ。
しかし、諏訪はうつ伏せたまま顔を背けてしまう。
そんな諏訪に、串崎も"ん?"とパソコンから目を離した。

「どうした?諏訪。夏バテ?」
「お前、"俺は12月生まれだけど夏に生きる男だ"とか言ってなかったっけ?」

串崎と町田の、的外れな質問。どうせ彼らの発想なんてそんなところなのだろうと、雁首揃えてお気楽な人たちだと、諏訪は心の中で呆れの溜め息をまたひとつ吐く。

自分が、ここまでダメージを受けるとは、正直思っていなかった。
そして"彼"が、ここまで自分の中を浸食していたなんて。

皆藤に会えない日が続くことが、こんなにも苦しい。出会ってからは殆ど毎日顔を合わせていて、それが日常だったから、余計に。
気付いてしまった自分の気持ちを誰にも話せないまま、ただ彼を想う。行き場のない片想いだけれど、それでも彼と毎日会うことが、この絶望的な恋を慰めてくれていたのに。
彼が振り向くことはないだろう。そんなこと、諏訪にも分かっている。もし仮に、彼がいつか自分に心を開いてくれたとしても、それは生徒としてであって。他の生徒たちが諏訪にしていることを、彼がしてくれるだけのこと。串崎と麻生のように上手くいくなんてことは、滅多にありえない。
どうしても皆藤を欲しいという気持ちと、諦めなければいけない、こんな気持ちは消さなければいけないという気持ち。その間で揺れ動く自分の心に、皆藤に会いたくて仕方ないという正直な気持ちが更に押し寄せてくる。はっきり言って、八方塞だ。

「串崎さん、麻生とは相変わらず順調ですか?」

体を起こし、諏訪は椅子の上で器用に足を抱えながら、串崎に何気なく訊ねた。

「おかげさまで。何、上手くいってほしくねぇのかよ」

照れくさそうに返事をした後、串崎は冗談交じりに憎まれ口を叩く。
諏訪は、とりあえずいつもの表情に戻し、ひやかし口調で訊ねることにした。

「どっちが、先に言ったんすか?」
「何を?」
「付き合おうって」
「え……」
「お!おもしろそうな話だねぇ。俺も聞きたい」

椅子を座り直した町田が、串崎を覗き込む。諏訪も、おもむろに靴を脱いで自分のデスクに乗り上げると、そのまま串崎のデスクの方に渡って、町田とは反対側の串崎の隣の椅子に腰をおろした。

「わっ。お前、何机渡り歩いてんだよ。行儀悪りぃ」
「ちゃんと靴脱ぎましたよ」
「そういう問題じゃ…」
「ヒャハハハ。諏訪ちゃん、ホントはお前も元ヤン?」

机を渡り歩くというトンでもないことをした諏訪に驚いて声を発した串崎と、大爆笑の町田。
しかし諏訪はどちらの反応も気にすることなく、手にしていた靴を履くと串崎に顔を近づけた。町田も、状況を愉しむように、串崎に詰め寄る。

「いいじゃないですか。ケチケチしないでそれぐらい教えて下さいよ」
「そうだよ。吐け、串崎卓也」
「吐いたら楽になりますよ」
「お前に黙秘権は無いからな」
「俺たちは串崎さんに協力してるんですからね?黙秘はダメですよ?」
「さあさあ。吐くんだ」
「お前ら……質の悪い刑事みたいだな」

2人に詰め寄られて逃げ場を失った串崎が、眉を寄せながらボソリと呟く。
しかし、2人の言う通り、麻生とのことに関して彼らにタッグを組まれ問い詰められてしまっては、串崎に逃げ場は無い。実際、2人にはいろいろとフォローしてもらったり協力してもらっているわけなのだから。
だから串崎は、

「……俺、かなぁ」

少し曖昧な感じを装いつつも、仕方なく答えのだが、

「「はっきりしろ!」」

同時に突っ込まれる。

「はい、俺、俺です。俺から言いました」

結局正直に事実を告白したことで、やっと2人が納得顔を見せた。

「やっぱなぁ。そりゃそうだよな」
「麻生から言うわけないですよね?」
「っつうかさ、カテキョの串崎から告られて、断れなかったんじゃねーのぉ?」
「ありえますね」
「中学生の頃の麻生ちゃん、可愛かったんだろうなぁ。アイツの存在知ってからはさ、テレビに出てくる男のアイドルが霞んで見えるんだもん」
「俺もそれ、思いました。カッコよさと可愛らしさのバランスが絶妙ですよね。顔が良くて性格良くて頭も良くて、とにかく最高ですよ。嫌味の無い優等生ですからアイツは」
「それに引き替え、大学時代の串崎はやっぱり、見た目と数学の知識だけの男だったんだろうな。6つも7つも年上の成人のくせして、どーせ鼻水でも垂らしてたんだろぉ」

串崎に詰め寄ったまま、彼を挟んで2人が勝手なことを言い出す。
居てもたってもいられず、串崎は2人の頭を思いっきりひっぱたいた。

「お前らねぇ。聞き出しておいて、何つー言い草だよ。
だいたいなぁ、正式に告ったのは俺からだけど、その前に……」

勢いで余計なことを口走りかけ、慌てて串崎は口を閉ざした。
しかし、しっかりと聞いていた2人が、串崎に一層詰め寄ってくる。

「何、お前、"その前"って……」

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