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「Stranger(直×大)」
3:独占欲と自覚

3-2

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「消えるって…他の男って…涼太さんやで?」
「風見さんだからだよ」
「は?」
「2人のこと、みんな見てた」
「そんなわけ…」
「ある。少なくとも俺らのテーブルの3人は、2人を見て大盛り上がりだった」

お似合いだ、と。しかしその言葉は、直希は言えなかった。口に出すことすら憚れるほど、本当にあの姿は絵になっていて、不安に駆られたのだから。

「風見さんが言った言葉を信じたせいか、余計に気が気じゃなかった。大河が彼にする気配りもすごく自然だったし、あの空間だけが切り取られてるみたいに見えて。風見さんだから、心配だったんだよ」
「………」
「相手がタクとか幸樹だったらこんなこと言わない」(←何気に失礼)

直希の言葉を聞きながら大河は、バーでの風見の言葉を思い出していた。

『俺が大河をバーに誘ったって言った瞬間、顔色変わったよ?』
『彼、俺たちが店出る姿、いちいち気にして見てたよ』

それを聞いたときは"そんな大げさな"と思っていたが、彼の言うとおりだったようだ。
さすがは風見だと思う。

「ごめんな?直希。そうやな、涼太さん美人やからな。あの人と居るとそういう風に見えてしまうんか」

こんな自分が相手でも風見と居れば絵になってしまうのかと、大河はあの美形のトリックに感心しながら、そのせいで心配になってしまったという直希に申し訳なくて背中を軽く撫でてやる。
しかし直希は小さく首を振ると、

「風見さんだけじゃないよ」

ポツリと、頼りない声でそう言った。

「大河もだよ」
「え…?」
「今日の大河は、俺だって初めて見るわけじゃないけど。でもなんか、違う人に見えて」
「……違う…人?」
「うん。たぶん、元々は一人で飲みに来てたからなのかな。俺が見たことない顔してた」
「…………」
「その流れで、風見さんと現れて。彼を守るように歩く姿とか、さりげなくドア開けてあげたりとか……大河らしいといえばそうかもしれないけど…なんか、知らない人みたいで…」

段々小さくなるその声とは逆に、大河を抱く腕に力が入っていく。

「不安だった。大河が俺の知らない顔してるから」

自分たちとは違う世界の人だと口々に言っていた友人たちの言葉に、その不安は煽られて。何としてでも早く2人きりになりたかったのだと直希が言えば、大河もようやく、メッセージや電話で急かしてきた彼の意図を理解した。
そしてそれを理解すると、

「フッ…」

なんだかおかしくなってきて。

「何や、お前もか」

自分からも、ギュッと直希を抱きしめる。

「え?」
「俺も、同じやで」
「大河も…?」
「俺も今日のお前が、知らない奴に思えた」

店で会ったときとお互い同じ格好をしているのに、不思議だ。
今こうして抱き合っている彼は、自分がよく知る鈴野直希で。
きっと自分もまた、彼が知っている安藤大河なのだろう。

「まあ、お互いにお互いが知らない部分がある方がええんやろうけどさ」

だから何もかも知ることはない。そう思える余裕ができて結論づければ、まだいまいち納得できていないらしき直希が、少しだけ体を離して覗き込んでくる。
彼とすれ違ってしまうのはこういう場面だと少しだけ学習できてきた大河は、不服そうに眉をひそめる直希をまっすぐ見つめて、自分の言葉の意味を答えてやった。

「知らない部分ていうのは、相手に見せる機会のない顔ってことやろ?それを全部知る必要なんてないやん。知っても、どうせ自分と居るときに見ることはないやろし、今日みたいにお互いに"ああ、俺とは違う"って思うだけや」
「自分とは違う…?」
「今日の直希は、なんとなく、"俺とは違う世界の奴"って思ったかな。お前もそうなんやろ?」
「それは、まあ…」
「俺が知ったらアカン顔なんやないかなって、思ったよ」

1週間ぶりに会った直希が見知らぬ人間に見えて。それは自分が知ってはいけない顔なのだろうと思えて。
タイミングが悪かったなと、ただそれだけを感じていたついさっき。

「そしたらなんか、同じ空間に居てはいけない気がしてきてな。店を変えたのは、それもある。涼太さん居なくても、変えるつもりやったし」

やっぱり自分は酔ってるのかもしれない、と大河は思う。
普段の自分なら言えやしない言葉が、素直に零れ出す。
それならそれでいい。酒のせいにしてしまえば、恥ずかしくもない。

「もしもそれがお前を不安にさせたなら、ゴメンな?でも、そういうことやから」

決して遠ざけたわけではないと、不安だったのは自分も同じだと、説き伏せるように彼を覗き込む。
すると直希はしばらく黙って大河を見つめてから、

「俺は、同じ空間に居たかったよ」

大河の頬に触れ、前髪にも触れた。
その指先が前髪をかき上げるように、ゆっくり動く。

「俺たちがあの店で鉢合わせたのは、俺たちらしい偶然ていうか繋がりで、俺本当に嬉しかったんだ。
でも、一人で来た大河は俺の知らない人に思えて。だから、偶然出会えた繋がりだけが俺の頼りだったんだよ。あのとき、俺たちの唯一の共通点てそれしかなかった気がしたから」

何回も頭を撫でてくれる直希の手のひらが、その温度が。自分たちの感覚の違いを埋めてくれるように、大河には思える。
それと同時に、彼が感じていた不安を痛感した気がして。
恋人の知らない一面を見て不安に駆られながら、僅かな糸を繋ぎとめようとしていた彼の、その不安を。
だからその手をとって、しっかりと握ってやった。

大河のその温もりが、今度は直希の心を満たしていく。
彼の優しさが、とても心地よくて。
でも大河は決して、自分だけに優しいわけじゃないことも知っている。
大河は根っからの優しい人だから。
打算なく誰にでも優しくて、もちろんそれで損することも多いし失敗もトラブルも巻き起こすが、彼の一生懸命さは誰にでも伝わるから、たくさんの人から愛される。
そんな彼を尊敬するし相棒として誇りでもありながら、相反する複雑な気持ちもまた、直希の心には共存している。

「大河のさりげない気遣いとかいつだって惚れ惚れするのにさ、風見さんに向けた顔とか仕草とか、俺は見たこと無かったから、嫌だった」

もしかしたら過去の彼女にはあんな態度を取っていたのだろうかとか、千田のような可愛がっている後輩にはあんな態度を取るのだろうかとか、そんなことばかり、あのときの自分は考えていて。
彼を知れば知るほど、知らない部分が明るみになって。また新たな、知らない彼が顔を出して。
それを誰か別の人間に見せたとき、何かが始まってしまうんじゃないかと思うだけで……何も起きていなくたって嫉妬心が沸き起こる。

「これ以上遠ざかってほしくないって思った。早く、大河が俺にしてくれる顔を見たくなった」

自分だけに、触れて欲しくて。
自分だけに、笑って欲しくて。
自分だけに、優しくして欲しくて。

「1週間ずっと、大河は俺以外の人に別の顔向けてたんだろ?それはもちろんしょうがないことだし、俺だって同じなわけだからいいんだけどさ。でもやっぱ、今日みたいなのを目の当たりにすると、心配になっちゃってさ。
だから、風見さんには悪いけど、邪魔しちゃったよ。ゴメンね?」

早く帰れという意味を匂わすようなメッセージを送れば2人の時間を邪魔することは分かっていたし、電話なんてもってのほかだったが、どうしても自分の手元に戻したかった。

「カッコ悪いよな…俺」

自分がこんな風になるのは、相手が大河だから。
本当に好きな相手の前では、"カッコいい"だとか"爽やか"なんていう、世間一般的なイメージの自分ではいられない。
カッコ悪くてもみっともなくても、ひたすら真っ直ぐに正直に生きる、23歳の一人の男だ。

「だから、別に大河を信用してないとかじゃないから。単に俺のワガママ……んっ…」

その先の言葉は、大河の唇に塞がれて、直希は言う事が出来なかった。

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