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「★PERFECT BLUE:別シリーズ【連載中】」
2幕-11:ギター弾きとライオン

PERFECT BLUE 11-03

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10日後。放課後の進路指導室。
諏訪の前に座るのは、富永。

「お前、大学進学することにしたわけ?」

最初はどうでもいい雑談をしていた諏訪が、やっと本題に入った。
諏訪は、生徒1人1人とじっくり話すためにと、1日に1人しか面接をしないようにしている。話の内容や話す数によって時間が変わるので、次の人間を気にしているとじっくり話せないからだ。
1日に1人の生徒と、諏訪のスケジュールが何もない日を狙ってやるために、面接はかなり長期間を要する。しかし2学期中に全員と一度しっかり面接をしておきたいからと、諏訪は今月から始めたのだ。

「先週この紙出してくれたじゃん?前回と全く違うから、ちょっと驚いた」

10日前に富永が出した紙を見ながら、諏訪はあまり真剣な様子は見せずに話題をもちかける。
すると、先ほどまで楽しそうに会話をしていた富永が、わずかにだがはっきりと表情を曇らせた。

「じつはさ、先生。俺ね、音楽の道に進むの、諦めようと思ってさ」
「え?」

唐突な発言に、諏訪は目を丸くした。

「何で?あんなにやる気満々だったじゃん」
「そうなんだけど……」
「ん?」
「限界を感じるんだよね」

富永は、苦笑混じりにそう打ち明けた。
いつも勝ち気な富永の弱音にしばし諏訪は言葉をなくしたが、高校2年生が発するには早すぎる発言に、すぐに笑みが出る。

「まだ17かそこらで、限界を感じるもクソもないだろ」
「でも、自信がない」
「自信?」
「うん。テクニックとか、上手さとか、ある程度までは身に付いても、そっから先は才能だよ」

富永の言うことは、確かにもっともだ。それを悟ってしまったらしい彼の言葉は、ついさっきまで"17歳でそんな事言うなんて"と軽く考えていた諏訪から笑みを消させた。

「俺ね、この間、ライブハウスに軽音部の先輩たちがやってるライブを観に行ったんだ。
先輩ね、1つしか上じゃないのに、すごいテクニックもってた。
それ見て思ったんだ。俺と先輩との間には、決定的な違いがある。それは、才能だ、って」
「………」
「俺には、あんな才能はない。あんな風に、ギターを操れない。俺の指は、あんな風に動かない」

俺の技術には限界があるよ。富永はそう続けた。
確かに、芸術というものは生まれもった才能が必要だとは諏訪も思う。
しかし、才能は、技術だけじゃない。そう考えて、諏訪は口を開いた。

「テクニックや上手さだけで勝負は出来ないんじゃないかな」
「……え?」

俯いていた富永が、ゆっくりと顔を上げる。

「俺は、音楽に必要な才能っていうのは、人に聴かせる力だと思う」
「聴かせる力…?」
「うん。もちろん、ギターとかでも、すごいテクニックがあれば、それだけで聴かせることは出来るよ?でもさ、たとえ天才的な才能がなくても、人の心にしみこむ音楽ってあると思うんだよ。どうせお金出すなら、上手な演奏より心の込もった演奏の方が、俺は聴きたいと思う」
「………」
「たとえば歌手とかだってさ、それほど歌が上手くなくても、その人独自の声で人に聴かせることが出来る人ってたくさんいるじゃん?魂を込めた声っていうのかな。ギターだってそうじゃないのか?音に魂を込めた演奏って、魅力的だと思うけど」
「俺には、ないよ。そんなの」

再び、富永は俯いてしまった。前向きな彼らしくない、弱気な態度。本当に彼は、スランプ状態なのだろう。部活の先輩の演奏と自分のギャップを思い知って、ナーバスになっているのだ。
しかし、諏訪は優しい慰めを言うつもりはなかった。それは、たとえ今の彼の気持ちは救ってやれたとしても、彼に逃げ道を作ることに他ならないからだ。楽な道へ逃げることを助けてやるほど、自分は暇じゃないし、それは優しさではないとも思う。
だから、ただストレートに、今思うことを告げてやることにした。

「お前にそれが有るか無いかなんて、そんなの分からない。お前がそう思ってるだけかもしれない」

今の富永は逃げているだけだと、諏訪は思っている。しかしそれを今の彼に突きつけるのはどうかと思うから、黙っておいた。とにかく少しだけ、彼には考える時間が必要だ。

「俺はね、23年近く生きてきて、夢が必ず叶うわけないことはじゅうぶん分かってる。好きってだけじゃやってけないってことは分かってるよ。いつか必ず、将来を見極めなきゃいけないときは来るんだ。
でも、お前はまだ諦める段階じゃないと思う。大学進学っていうのも頭に置いておくのはいいけど、音楽っていう道も、もう少し頭の中に入れておいたら?」

スランプは誰もが通る通過点。しかしそれで、後ろ向きにだけはなってほしくないのだ。上手くいかなくても、前を見ていてもらいたい。

「大学に行っても、音楽は出来る。だから、大学進学は悪くないと思うよ?もしかしたらもっとやりたいこと見つかるかもしれない。そうやって視野が広がるのはいいことだ。選択肢なんて、多くて悪いことはない。いくらだって迷っていい。迷った分だけ、自分の人生と向き合う時間が増えるんだから。
だから、音楽を諦めるから大学に行くってのは、どうかな。スポーツ選手なら選手生命とか関わってくるから悠長な事言ってられないかもしれないけど、幸い音楽はさ、一生できるものなんだから」
「……先生…」
「答えを急ぐなよ、富永」

優しく笑顔をかけてやると、富永は俯きながらも小さく頷いた。


面接を終えた富永が校舎を出ると、部活中の谷原が居た。グラウンドで、空の写真を撮っている。しばらく眺めていると、谷原も富永に気付いて近寄って来た。

「あ、トミー今日面接だったんだっけ」
「まあ、な……」
「先生、何て言ってた?」

心配そうに、谷原が覗き込んでくる。
富永は、谷原には自分のことを話していた。中学の頃からの親友である彼には、一番に相談したのだ。谷原は気弱な部分もあるが、きちんと自分の意見を言える人間でもある。彼は決してその場しのぎの慰めは言わないから信頼できると、中学の頃から富永は思っている。6月の一件だって、ビクビクしながらもきちんと皆藤に自分の言葉を伝えたのだから。

「うん…答えを急ぐな、ってさ」

富永が答えると、谷原はわずかにホッとした顔を見せた。

「そうだよ。まだ結論を急がない方がいいって。大学進学ってのは、別にいいと思うけど」
「うん、先生も同じこと言ってたよ。だからまあ、まだ何も考えられないけど、選択肢には入れておくよ」

面接までは"諦める"の一点ばりだった頑固者の富永が、諏訪の意見で少し揺れている。
その姿に、谷原は"まだ望みはあるな"と思った。富永の奏でる音楽の可能性を、素人ながらも谷原は強く信じているのだ。

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