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「★PERFECT BLUE:別シリーズ【完結】」
2幕-13:存在価値

PERFECT BLUE 13-05

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「マチルダ先生、くっしー、やっほ」

2人の隣に立つと同時に、宇賀は串崎に向けたものと同じ笑顔で町田に語りかける。夏休み明けの新学期に見せた表情は、あれきり町田に見せない。まるで、何もなかったかのように。

「よお」

町田も、いつものように笑いかけた。
言葉が無くても、あの日の宇賀の言葉は本気だということ、町田は分かっている。一度言えば分かるだろう、宇賀はそう考えているのだろうと。町田は十分理解しているし、これ以上、そんな会話をしたくもなかった。そしてそれは、宇賀も全く同じ気持ちだった。
何故なら、こうして皆藤がこの場に来たことも、少なからず諏訪の力が影響していることは確実。だからこそ町田も宇賀も、その話題に触れたくないのだ。

劇が始まった。
皆藤が後ろの端に立っているせいか、先ほど緊張の表情を見せていた生徒たちも劇に集中して、笑い声を響かせている。町田も宇賀も、劇に意識を集中させた。
その中で皆藤は、ジッと前だけを見ていた。
自分が現れた瞬間、クラスメートも諏訪も、いきなり表情を明るくした。その意味が、全く分からない。どうしてそこまで自分の存在を大事にしているのか、どうしてそんなに自分をクラスの中に受け入れようとしてくるのか。
いつの間にか、自分のことをさほど恐れなくなったクラスメートたち。自分に近付いてこないのは恐れているからだはなく、接し方が分からずに戸惑っているだけなのだと感じさせる視線を、皆藤はここ最近ずっと感じている。
自分がどうしようが、どうなろうが、彼らには全く関係ないのに。ここに現れただけで、彼らはあんなに瞳を輝かせる。

―――ワケ分かんねぇよ…

室内が笑いが渦巻く中、皆藤は心の中で呟く。
自分をひたすら戸惑わせる、クラスメートと諏訪。彼らのことを考えれば考えるほど、頭の中は混乱するばかりだ。

「アハハっ」

宇賀の笑い声が、隣で響いた。町田も串崎も、劇を見て笑っている。前を見ると、特別出演の諏訪が、台本には恐らく無かったらしきバカなことをして、せっかくの美形を犠牲にしてまでも笑いを取っていた。他の出演者たちもアドリブ三昧だ。裏方の生徒たちまで、歌舞伎でも見ているのかというような掛け声をかける始末。

―――何がしたいんだこのクラスは

皆藤は思わず心の中で突っ込んだ。劇というよりは、完全にコントだ。

『子供の頃はアイドルに憧れてたんだよ』

そんなことを言っていた諏訪の言葉を思い出す。

『"慎く~ん"とか言われるのが夢だったね』

―――何が"慎くん"だよ

どう考えても、目の前の諏訪はお笑い芸人。担任がそんなんだから生徒も悪ノリするのだ、と考えたものの、自分も彼の生徒なのだと気付いた皆藤は、やはり参加を見合わせて良かったと思った。自分には、あんなこと出来ない。

『智司って、何気にかなりの天然だよな』

以前、町田や宇賀がよく言っていたが、ああいうテンションとは違うと思う。
それにしても……

―――バカなヤツら……

さすがの皆藤も、思わずフッと笑ってしまった。あまりのバカバカしさに、自然と笑みがこぼれていたのだ。


劇は大盛況のままに終了し、客が次々と退場していく。それを、生徒も諏訪も「ありがとうございました」と見送っていた。
後ろで立っていた皆藤たちは、人ごみに埋もれるのが嫌で、最後に歩いてきた。
皆藤は、無言で彼等の前を通り過ぎる。目を輝かせて自分を見ている彼らの視線を感じ、目を合わせられなかった。

「面白かったよ~。来年も劇にしてね?」

絶対観に行くから。と、宇賀が陽気に笑って彼らに手を振る。そして、すでに廊下にいる皆藤の元へ足早に出て行った。
最後に歩いてきたのは、町田と串崎だ。

「いや~、笑った。オタクの生徒たちは、諏訪を筆頭に芸人の集まりだね」
「バカだよね~、お前ら」

2人は口々にそう言ってケラケラと笑いながら、諏訪の肩を叩く。

「真鍋と桜沢と浜島なんか、思いっきり関西芸人してたし」

かけ声を出しているときに、まるで打ち合わせでもしていたかのように3人の息がピッタリだったことを串崎が指摘し、それを思い出した生徒たちも笑う。

「ホント、みんな最高。麻生もさ、大人しいけどノリも良いってのは分かってはいたんだけど、こんなに面白いヤツだとは思わなかった。秋本の王子っぷりは完全に宝塚で超ウザいし、武藤はその顔をいかして魔女っぷり発揮して壊れまくってるし」

1人1人の感想を丁寧に話す町田の隣で、串崎はひたすら笑っている。
すると最後に町田は、

「皆藤もね、笑ってたよ?」

そう付け足した。
全員の笑顔が、驚きの表情に変わった。串崎も、笑いをピタリと止めて驚いている。
皆藤が笑う―――それは、彼らにはどう考えても想像つかない姿。

「いや、俺たちとか他の観客みたいにゲラゲラ笑ってたわけじゃないけどさ。クスリとね、笑ってた。アイツを笑わせるなんて、相当面白かった証拠だよ。成功の証だね」

そう言って町田は、優しく笑顔を見せた。
自然と、他の生徒たちにも笑顔がこぼれた。諏訪も、眩しいほどの笑顔を見せる。
諏訪のその笑顔はやはり純粋で、正直で。町田は思わず、目をそらしそうになった。
この瞳が、皆藤をここに来させたのかもしれない―――そう思ったら、真っ直ぐ見つめることが出来なかった。何とも言えない嫌な不安が、心に拡がっていくのを感じていた。



「なぁ、腹減った。どっかの店入ろうよ」

隣で黙々と歩く皆藤に、宇賀が呼びかける。
しかし皆藤は、全く無視。彼の足は、誰も居ない2年F組の教室へ向かっていた。

「智司ぃ」
「俺は帰る」
「え?」
「用は済んだから」

あっさりと、皆藤は言い捨てる。
しかし、

"用は済んだ"

その言葉に、宇賀はふと気付いて笑った。

「何だ、俺が誘わなくても行こうと思ってたんじゃん」

見透かすような宇賀の口調。しかし皆藤はそれも軽く無視して、教室に入っていく。
そして、ポツリと呟いた。

「……行かないとうるさいヤツがいるんだよ」
「え?」
「後でギャーギャー騒がれるのがウザいだけ」

それだけを答えると、皆藤はさっさと帰り支度をしている。
そんな彼を見ながら、宇賀は少しだけ苦笑した。
"うるさいヤツ"が誰かなんて、すぐ分かる。ずい分と、良い意味で皆藤は彼のペースに乱されているのだ。
劇を隣で見ていたとき、皆藤が笑ったことも宇賀は気付いていた。優しい横顔だった。今の表情も、少しだけ優しい。
諏訪のおかげでこの親友は人間らしさを取り戻し始めたのに。宇賀に対しても、今までよりは壁を作らなくなってきたのに。それでも複雑な気持ちになってしまう自分が、諏訪の存在を心のどこかで素直に喜べない自分がいた。
それは諏訪が、皆藤に対して生徒以上の気持ちを抱いているから。それに気付いているくせに諏訪を拒絶せず、寧ろ容認しているかのような皆藤がいるから。
着実に皆藤の中を浸食している、諏訪という存在。ただただ真っ直ぐにぶつかるだけの単純さが、複雑な性格の皆藤には逆に効果的で。それが、宇賀を妙に焦らせていく―――

「じゃ、俺も帰ろうっと」

頭の中を断ち切るように、宇賀は笑顔を作った。

「くっしーに、"具合が悪くなったから帰ります"って送っとくか」

真面目な宇賀さんもたまにはサボらないとね~。なんて呑気に笑いながら、本当にメッセージを打っている。
皆藤はそんな宇賀の大胆さを、呆れ顔でチラリと見た。皆藤のことを"大胆だ大胆だ"という宇賀だが、彼だって相当な男であると思うのだ。

「よし、これでオッケー」

メッセージを打ち終えた宇賀は、呆れている皆藤にニッコリ笑いかけてから、軽くキス。

「送るよ」

皆藤を見つめたその瞳は、誘いのサイン。
胸に秘めた独占欲が、今の宇賀を支配していた。

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