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「★PERFECT BLUE:別シリーズ【連載中】」
2幕-15:カウントダウン

PERFECT BLUE 15-04

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「ほら、動くんじゃない」

皆藤の口元に消毒をしながら、町田が彼の肩を静止させた。
ケガをしている以上は警察や医師らのすすめで診察してもらったところ、歯が折れることもなく顎の骨にも問題はなく、ただの裂傷と打撲。ただしよく冷やして傷口の消毒もしっかりするようにと言われて帰って来た皆藤に、町田は手当をしてやっていた。

「諏訪から聞いたよ」
「………」
「お前、また大胆なことしたみたいだな」

真鍋たちが諏訪に救いを求めに進路指導室に駆け込んだとき、町田は隣の保健室に居た。その異様な騒がしさを不審に思って廊下に出ると、飛び出してきた諏訪たちが危機迫った顔をしていて。そこで、事情を聞いたのだ。
町田はすぐに現場へと向かいたい衝動に駆られたが、自分の立場上それをするわけにはいかず、そもそもどこに行ったらいいかもわからない。自分にできることといえば、焦っている諏訪や真鍋ら生徒たちを保健室に招き入れ、落ち着かせてやることだった。
その後、病院から学校に連絡が入って諏訪が向かい、町田は諏訪から聞いた"3人は無事""野田たちも捕まった"という情報を真鍋たちに教えてやりながら彼らを車で駅まで送ってやった。そして皆藤が帰ってくる少し前に、諏訪から電話がきて詳細を全て聞いたのだ。

「お得意の頭脳プレーだった、って。木下たちが言ってるみたいだよ?」
「別に、ちょっと考えりゃ出来ることだろ。祥だってきっと1分で思いつくはずだ」
「そう?あ、それと、石原の傷も、お前の応急処置が良かったらしい。病院の先生が感心してたってさ」
「ぜんぶお前のパクリだよ」

口元に絆創膏を貼られ、殴られて赤く腫れたところを保冷剤で冷やされて、皆藤は不機嫌そうに煙草を咥えるながら町田から顔をそむける。
分かりやすく照れ隠しをした皆藤に町田はニッコリ笑うと、救急箱の蓋を閉じて、自分も彼の隣に座った。

「木下も石原も、お前にすごい感謝してるってさ。諏訪が俺に電話掛けて来たとき、嬉しそうに言ってた。それはあの場所で助けてくれたことだけじゃなく、木下に於いては、病院に着いてからもだって」
「何だよそれ。意味わかんねぇ」
「そうやってすっとぼけてんじゃね~よ。お前ってホント、天邪鬼だよな~」

皆藤の頭を軽くはたき、町田がケラケラ笑う。
すると、皆藤はふと、何かを思い出すように表情を変えた。

「なあ、祥」
「ん?」
「俺さ、分かんねぇんだよ」
「え…?」

しみじみと呟いた皆藤に、町田も表情を戻す。

「俺、ブリストにいた頃、ハーモニカを聴いてきたって言ったこと、あるだろ」
「え?あぁ…そういえば、そんなことあったなぁ」

あれは確か、自分たちが出会って半年ぐらいした春の日のこと。

『今日、ハーモニカの音、聴いた』

朝方、帰ってきた皆藤がそんな言葉を漏らした。

『すげぇ、綺麗だったんだ』

綺麗過ぎて、あの街に似合わないぐらい。彼は、優しい笑顔でそう言った。普段はブリリアント・ストリートでの出来事は決して口にしない皆藤だったが、たった一度だけ話してくれたのが、あの話だった。芸術事が好きな彼だから、きっとハーモニカの音色が心に響いたのだろうと、そんな風に思ったことを町田も覚えている。

『二度と来るなって言ってきた』

あの日、皆藤はそうも言った。
その口調からして、きっと少年は何かトラブルに巻き込まれ、皆藤のことだからその少年を助けたのだろうと、町田は分析していた。
そしてそれ以来、皆藤はハーモニカの少年のことは一度も口にしなかったし、きっと本当に居なくなったのだろうと町田も思い、その出来事は今の今まですっかり忘れていた。

「ハーモニカ少年が、どうかしたか?」

何を思い出したのだろうと顔を覗き込むと、皆藤は煙草の炎を眺めながらポツリと答えた。

「あれ、野田なんだよ」
「え……」
「あの街に初めて来た、野田だったんだ」

その名前に、思わず町田は目を丸くした。そんなことは、一度も聞いたことがなかったから。

「アイツがそうだって、俺、最初から知ってたんだ……」

溜め息交じりに、独り言のように呟かれた言葉に、町田は何も返せない。
もしかしたら皆藤は、ずっとそれを心の中に隠していたのかもしれない……自棄に淋しそうな皆藤の横顔を眺めながら、町田はそう感じた。
あの日ハーモニカを聴かせてくれた少年が、しばらくして自分の敵になって。ずっと心を痛めながら彼と戦っていたのかもしれない。そんなこと、絶対に皆藤は言わないのだろうけれど……。
自分に刃を向ける人間には容赦しない皆藤。たとえ綺麗な音色を聴かせてくれた少年であっても、自分のことを潰そうとした彼に真っ向から立ち向かったのだろう。一体、どんな思いだっただろうか……そう思うだけで、町田の心は痛んだ。

「お前は、それをアイツに教えてやったのか?」
「今日、言った。気付いたら口が滑ってた」
「え…」
「そんなことアイツに言うつもりなんて全くなかったのに。もうアイツは、あの日のアイツじゃないのに」
「………」
「どうして俺は、今さら言ったんだろうって……分かんねぇんだ」

ホント、ワケわかんない。皆藤は、煙草の紫煙を天井に向かってフーッと吐きながら、遠い目をする。そこには特に表情はなかったが、町田は彼自身が気付かないその胸の奥を理解した。

「それは、お前がきっと、無意識の内に野田を救いたいと思ったからじゃないか?」
「………?」

町田の言葉に、皆藤がゆっくりと視線だけを向けてくる。

「お前は、あの音色に心が安らいだんだよ、きっと。殺伐としたあの街で、似つかわしくないほどの綺麗な音色にさ。たった一瞬でも、心を浄化されたのかもしれない。
だから、野田のことも救いたいと思ったんだ、心の奥のどっかで」
「………」
「人を陥れることしか出来ないアイツに、あの日のことを思い出させたかったんじゃないのか?
人の心を癒せる音色を出せる人間は、心が汚かったら出来ることじゃない。
だからあの日、お前に綺麗な音色を聴かせてくれた野田の心を、思い出させたかったんだよ」

あの街に染められ、心を汚していった野田に。人を傷つけることで"自分は強い"と感じるようになってしまった彼に。
皆藤が野田のチームを潰したのも、もしかしたらそんな思いがあったのかもしれない。町田はそう思った。早く、この街を出て行けと。新しい道を進めと。

「お前は、無意識でも人に優しく出来るヤツなんだよ。だから、もっと自信を持っていい」

皆藤は、そういう人間だ。無意識のうちに、人に優しさを与えてくれる。町田は、何度もそんな場面を見てきたから分かっている。
意識しなくても人に優しくなれる。それで自分がリスクを背負っても、利益なんてこれっぽっちも考えない。それが、皆藤の一番素晴らしいところだと。

「野田がそれであの日の自分を思い出すかどうかは分からない。もしかしたら、何も変わらないかもしれない。それでも、お前が今日アイツに打ち明けたことは、決して間違ってないよ」

そう言って町田は優しく微笑むと、皆藤の肩を抱き寄せた。
彼が口元に当てている保冷剤を外させ、そっとキスをする。自分の知らないところで心を痛めていた優しい皆藤を、とても愛しいと思った。

「お前はやっぱり、タンポポだねぇ」

何気なく呟いて笑うと、皆藤もフッと笑った。

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